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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第13夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『白雪姫と鏡の女王』(12年)
『SNS-少女たちの10日間-』(20年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

年齢と映画

 加齢は避けがたい。できれば人間的成長として、前向きに捉えたいものだ。でもネットでまとめサイトに迷い込んだとき、女性有名人に対する「経年劣化」という忌々しい表現が目に飛び込んでくる。なんとも不快な気分になる視点だ。見た目の若さへの強い信仰が、ネットの匿名性の中で露骨にむきだしになっている。

 この若さ重視の発想を、本名で大っぴらにする人は意外に少ないのではないかと思う。一応大概の人は、自分の性的対象の若さにこだわるのは気持ち悪くて周囲から引かれる、という認識は持っているんじゃないか。また子どものような恋人を選ぶことは、精神年齢の低さの露呈にも思える。本心はともかく、社会性があるなら、日常生活で「若い子好き」なのはあまり大声で言わないものだ。

 でも、ネットには「王様の耳はロバの耳」と叫ぶように、若さを重視した声があふれる。この掛値のないある種の正直さを見かけると、ちょっと傷つきそうになる。率直な欲望においては若さが望まれるという、ゆるぎない真実は残酷だ。確かに芸術のように美を追求するなら、若い肢体が持っている美は強い。果物も完熟を過ぎれば熟れすぎて、腐敗に近づいていくのも事実だ。人間の外身もそれと同様だとは思う。テレビで若い女性を褒めそやして、それより年上の女性を貶して笑いを取ろうとする一幕も、わたしはスルーできずにしっかりイヤな気分を味わう。

 もちろん、人間の加齢の醍醐味は精神にある。若い時分は未熟さや経験の浅さという人間として足りない部分があるから、決して手放しで良い年代といえない。振り返ってみて、恥ずかしさで悶絶しそうな思い出は結構あって、つくづく加齢で手に入れた経験値の大事さがよくわかる。他者への理解や想像力も、知識や経験から広がっていくので、年を重ねて良かったと思う。

 言い添えておくと、当然だけれど若さより、ある程度年齢を経た相手にしか色気を感じないセンサーの人も多い。それに一緒に年を取っていく夫婦の、互いの年齢への価値観もまた格別なものだ。同じように老いていくからしっくりきて、落ち着いた生活が送れる。そこでは若さは価値あるものではない。

 時々、相手がある程度年を取ったら別れて、また新たに若い奥さんを貰うというのを繰り返す、ある年齢層の女性にしか興味のない男性がいるけれど、疲れないのかなと思う。それにちょっと、女性の若さにだけこだわって、女性の滋味のようなものを理解しない性癖が、見ていて恥ずかしい気もする。他人の性的な好みにとやかく言うのも野暮だけれども。

 先日、大津市のNPO法人がある実証実験をした結果が報道された。社会福祉士の資格を持つ理事長の監視下で、「スタッフが女子中高生らを装って交流相手を募ると、開始数秒から返信が相次ぎ、9時間で160人に達した」。

 性的に若さに惹かれている部分もあるだろうが、もっと大きいのは「未熟だから思い通りに扱える」という、相手の弱点につけこむ動機だ。大人がこんな考えで子どもを選ぶなんて、なんとも気が滅入る。若さという誘蛾灯に寄ってくるものが、何か人間の愚かさや気持ち悪さを煮しめたようで、イヤな気分になる。

『白雪姫と鏡の女王』(12年)

『白雪姫と鏡の女王』

監督:ターセム・シン
脚本:マーク・クライン
出演者:ジュリア・ロバーツ/リリー・コリンズ/アーミー・ハマー

 小さい頃から「白雪姫」の物語は苦手だった。キレイと言われてきた女性にとって、目の前で自分より若い子がちやほやされるのはつらいだろうなあと、幼心に思っていた。女王の問いかけに「世界で一番美しいのは白雪姫です」と答える鏡も愚直だ。正直だから鏡なのだけれども。ネットにはこの鏡のような答えが大量にあふれている。女性の若さや容姿に対して、正しいかもしれないけれど、言わなくていい言葉だ。

 この映画は配役がうまい。美しいけれどトウが経ってしまったジュリア・ロバーツと、若いから美しいリリー・コリンズの白雪姫。女王がかなり卑劣で浅ましい人柄であることと、白雪姫がマーシャルアーツを覚える努力家というバランスも整っていて、本作は観ていて楽しい。石岡瑛子による衣装のデザインが独創的で、それだけでも見るに値する。

『SNS-少女たちの10日間-』(20年)

『SNS-少女たちの10日間-』

監督:バーラ・ハルポヴァー/ヴィート・クルサーク
脚本:ヴィート・クルサーク
出演者:テレザ・チェジュカー/アネジュカ・ピタルトヴァー/サビナ・ドロウハー

 先述した大津市の実証実験は、この映画に触発されて行われたものだ。本作はチェコ発のドキュメンタリー。幼く見える成人の女優3人が集められ、彼女らはSNS上で12歳の少女を装って友人を募集する。すると、その10日間の実験期間に、彼女たちにコンタクトを取ってきた男性は2458人にも及んだ。

 実在しない幽霊が暴れるホラー映画より、現実社会でおそらく身近にも住んでいる気持ち悪い存在を目の当たりにするほうが、よほど怖い。12歳の少女と思っているはずなのに、送りつけられる性器の画像。彼女たちが家族とけんかしたと話すと、待っていたかのように家出の誘いがかかるなど、ゾッとする場面が頻出する。

 子どもに手を出そうとする成人男性たちの言い訳が、判を押したように一緒なのが呆れてしまう。尻尾を掴まれながら開き直る様子などを見ていると、おそらく常習犯であり、過去にもすでに犠牲者はかなり出ている。もっと以前から深刻に扱うべきだった問題を暴いた作品だ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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