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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第17夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
お嬢さん(2016年)
JSA』(2000年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

韓国映画あれこれ

韓国映画はなんとなくずっと観てきている。最初に劇場で観たのは高校生の時の、イ・チャンホ監督『外人球団』だったと思う。日本の野球マンガ『アパッチ野球軍』みたいな、ちょっとバカ映画的なスポ根ものの雰囲気が漂っていたので、好奇心で観た。確かに笑ってしまうようなおかしさもあったが、後半から登場人物の感情が激しさを増して、日本人には想像もつかないほど、人を想う狂おしさに満ちているのが独特だと思った。

最初は単純に、韓国語でよく聞く恨(ハン)という言葉が頭にあって、『外人球団』も根深い怒りや恨みの感情を表しているのかと思った。しかし韓国映画を観るうち、恨(ハン)とは日本語でいうような恨みだけを指すのではなく、もっと長年の抑圧に対する悲哀や憤り、諦念といった複雑な感情を表すのだと知った。

『外人球団』を観て、出演していた韓国の国民的俳優だというアン・ソンギが好きになった。またこの頃、日本でも韓国ニューウェーブというくくりで、韓国映画のブームが来た。アン・ソンギの出ている作品も多くて嬉しかった。この時期の作品は、のちの韓国映画ブームとは違って文芸寄りというか、作家性の強い人間ドラマの映画が多かった。それと『桑の葉』という、チマ・チョゴリが印象的なちょっとエッチな映画シリーズも、一般劇場で公開された。どこの国でもこの手の時代物は人気があるんだなあと思った。

2000年に日本でも大ヒットした『シュリ』の影響は大きかった。北朝鮮との緊張関係を、ハリウッド映画のような娯楽大作にしているのが見事だった。また『JSA』も同じ年にヒットした話題作で、日本人にとって韓国映画における北朝鮮の描き方が、ナーバスな問題なだけに新鮮だったのだと思う。『JSA』の出演者がソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イ・ヨンエ、シン・ハギュンと、今も容姿が特に変わらない人たちなのもすごい。全然老けない。

『JSA』の監督はパク・チャヌク。海外進出も果たし、近年では『お嬢さん』といった話題作もある。『JSA』ではクライマックス近くの演出で凄まじい衝撃を受けた。南北の兵士の危うい友情を描いた深刻にもなりうる場面で、おならが絶妙なタイミングで緊張と緩和のダイナミックさを生むのだ。ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』を観たときも、殺人鬼の恐ろしさとオフビートな笑いが一緒くたになっていて驚いたが、韓国映画にはそういったセンスがあるのだなあと感嘆した。

この時期のもう一人の重要な監督に、キム・ジウンがいる。彼の『クワイエット・ファミリー』を観たとき、とてもオシャレなブラックコメディで痺れた。これもソン・ガンホやチェ・ミンシクがすでに出演している。どこの国の映画というのではなく、国際水準でセンスの良い作品だと思った。日本でも石井克人監督の『鮫肌男と桃尻女』のような、出自国のカラーを感じさせないオシャレな映画が登場していて、同時代性を感じた。『クワイエット・ファミリー』はその後、日本で『カタクリ家の幸福』としてリメイクされたが、わざわざダサく作り直すのが恥ずかしいと思ったのを覚えている。

個人的に、韓国映画のもうひとつの顔である恋愛映画を観ていないのは、改めて驚く。韓国映画について語るだけで、結構人によってとても偏った映画史になるようだ。

『お嬢さん』(2016年)

『お嬢さん』

監督:パク・チャヌク
出演者:キム・テリ/キム・ミニ/ハ・ジョンウ/チョ・ジヌン/キム・ヘスク

パク・チャヌクが、サラ・ウォーターズの小説『荊の城』を映画化すると聞いてから、めちゃくちゃ楽しみにしていた映画。舞台を日本統治下の韓国に置くのも、アレンジとして問題ないと思ったが、出来上がった映画は原作とは似つかぬものになっていてビックリした。でもこの微妙な時期の、日本から抑圧を受けて文化が浸透してきてしまう状況を、退廃と捉えた表現はパク・チャヌクらしい。ただ、女性よりは男性受けの方が良さそうだが……。

『JSA』(2000年)

『JSA』

監督:パク・チャヌク
出演者:ソン・ガンホ/イ・ビョンホン/イ・ヨンエ/キム・テウ/シン・ハギュン

南北の共同警備区域で起こった、北朝鮮軍の兵士が韓国軍兵士によって射殺された事件。現場に居合わせた目撃者の証言は、南北でまったく対立した。そこで、中立国監視委員会は事件の真相を解明すべく、スイス軍法務科将校ソフィー・チャン少佐(イ・ヨンエ)に調査を依頼する。

たとえ仕事としてもルーティーンで、敵側にも自分同様の者がいて、おおよそ性格や表情などが察せられたら、興味を持ってしまうかもしれない。この映画が製作された当時、現役・退役軍人から「南北の兵士の交流は考えられない」とクレームがついたが、実際にはどうなのだろうか。さほど敵対心を持っていなければ、顔を合わせる人につい、気を許してしまったりするのではないだろうか。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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