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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第28夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』(2021年)
『8 Mile』(2002年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

ミュージシャンが本人役で登場する映画

 前回取りあげたアンディ・ウォーホルは、ルー・リードとジョン・ケイルによるヴェルヴェット・アンダーグラウンドを世に送り出したことでも知られる。彼らが1967年に発売したファーストアルバムの、ウォーホルによるバナナのジャケットはとても有名だ。しかしウォーホルとヴェルヴェット・アンダーグラウンドはアルバム一枚だけの関係で終了し、リードとケイルも不仲となって、68年にはケイルがバンドから脱退してしまった。

 そのリードとケイルがアンディ・ウォーホルの死を契機に、再び一緒にライブを行ったのが『ソングス・フォー・ドゥレラ』だった。このライブの模様は1989年にフィルムに収められ、映画として公開された。「ドゥレラ」とは、ルー・リードたちがウォーホルに名付けたあだ名で、シンデレラのように昼間に行動し、なおかつドラキュラのごとく夜間も動き続けるウォーホルを、いつ眠っているんだろうと驚嘆やからかいを込めた造語だった。残念ながら、日本でこの映画はソフト化されていないのだが、アルバムはYouTubeのジョン・ケイルの公式チャンネルで配信されている。

今回紹介したい映画が、のきなみ日本未発売なのでとても悔しいのだが、もしかしたら輸入盤を購入する習慣がある方もいるかもしれないので、ルー・リードが本人役で出演している『ゲット・クレイジー』もオススメしておきたい。曲の権利関係でソフト化が難しかったが、去年アメリカでブルーレイが発売された、マニアに熱烈に愛され続けている作品だ。ある大晦日の年越しコンサートのドタバタを描いた作品で、ルー・リードはライブへの出演を引き受ける。しかしその顛末がいかにもユーモラスでエキセントリック。いつか日本盤が出るかもしれない日のために、タイトルだけでも覚えておいてほしい。本当に楽しくて絶対観て損のない、ハッピーな傑作だ。

ミュージシャンが本人役で出演する作品は多い。ダニー・ボイル監督の『イエスタデイ』は、ビートルズがもし存在しなかったらという世界を描いた映画で、エド・シーランが本人役として重要な役回りで出演している。エミネムが自分自身の半生を演じた『8 Mile』も、かなり変わり種といえよう。またコメディ映画『ズーランダー』に登場したデヴィッド・ボウイは、若い頃と容貌がまったく変わっていなくて驚いた。それと本人自身ではないのだが、『ストレイト・アウタ・コンプトン』ではアイス・キューブ役を、彼の実の息子であるオシェア・ジャクソン・Jrが演じていた。それが若い頃のアイス・キューブに生き写しで、彼が映ったとたん、なんとなく映画館の場内がざわついたものだ。

<オススメの作品>
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』(2021年)

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』(2021年)

監督: トッド・ヘインズ
出演:ルー・リード/ジョン・ケイル/ジョナサン・リッチマン/メアリー・ウォロノフ/ニコ/アンディ・ウォーホル

『キャロル』や『アイム・ノット・ゼア』のトッド・ヘインズによる、初のドキュメンタリー作品。ルー・リードとジョン・ケイルの生い立ちと音楽的な背景、バンド結成までの物語が丁寧に描かれる。ファーストアルバムを出した頃も達成感的なものがなく、アンディ・ウォーホルをはじめ、ルー・リードが次々と仲間と衝突していく様を、当時の関係者が証言する。ソロになってからのルー・リードの表情の方が和らいでいて、最後の伴侶だったローリー・アンダーソンと抱き合う写真が美しい。

『8 Mile』(2002年)

『8 Mile』

監督:カーティス・ハンソン
出演者:エミネム/キム・ベイシンガー/ブリタニー・マーフィ/メキー・ファイファー/オマー・ベンソン・ミラー/タリン・マニング/マイケル・シャノン/クロエ・グリーンフィールド/アンソニー・マッキー/ユージン・バード

エミネム自身が半自伝的なキャラクターを演じた作品。デトロイトで貧しい生活を送るジミー(エミネム)は、いつかラッパーとなって、この犯罪にあふれた街から出ることを夢見ている。しかしラップは黒人のものだと思われている時代では、白人のジミーがラップバトルで勝ち抜くのは難しい。エミネムは主人公とはいえ、つまらない仕事をし、うんざりする家族や仲間に悩まされ、同じようにこの土地から這い出すことを夢見る女の子と恋をする。ほとんど最後まで、自分をかっこよく見せようとしない冴えない日常ぶりに好感が持てる。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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