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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第30夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『17歳のカルテ』(1999年)
『クワイエットルームにようこそ』(2007年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

オズの魔法使にオマージュを捧げた意外な映画

 『オズの魔法使』が遺した影響は大きい。たとえば「悪趣味の帝王」といった異名を持つジョン・ウォーターズ監督。彼の映画『ピンク・フラミンゴ』は、いわゆるカルトムービーの定番だ。比較的におとなしくてハッピーな『ヘアスプレー』(88年)は、2007年にジョン・トラボルタが女装して母親役を演じた、リメイク版を観ている人も多いかもしれない。このリメイク版のタイトルバックで、道行く主人公に対しトレンチコートをバッと広げる露出狂役でカメオ出演しているのが、ジョン・ウォーターズだ。

 このジョン・ウォーターズが、マイベストフィルムの1位にあげているのが『オズの魔法使』である。ただし子どもの頃から主人公のドロシーではなく、悪役の西の魔女に肩入れして観ていたそうだが。ジョン・ウォーターズの映画には『オズの魔法使』へのオマージュがみられ、『デスペラード・リビング』でノイローゼの主婦が逃げ込む「モートヴィル」という場所は、下品でイカれたまさにウォーターズ版『オズの魔法使』のオズの国である。また、『モンド・トラッショ』はほぼサイレントでとりとめのない物語なのだが、ラストでは絶望したヒロインが、かかとを三回打ち鳴らして姿を消してしまう。

 風変わりな作風ならデヴィッド・リンチも有名な監督だが、彼の『ワイルド・アット・ハート』も『オズの魔法使』をベースに物語が進む。母親から交際を反対されているルーラ(ローラ・ダーン)とセイラー(ニコラス・ケイジ)のカップル。逃避行をする二人のセリフには、「犬のトト」「虹の彼方に」「黄色いレンガ道」といった『オズの魔法使』を代表するイメージが散りばめられている。途中で、ルーラの母が狂ったように口紅を顔面に塗りたくるのだが、これも西の魔女が真緑の顔面をしているのを模しているのかもしれない。ルーラが女性として恥をかかされ、ひどく落ち込んだ際に赤い靴のかかとを三回打ち鳴らすのも象徴的だ。

 情緒不安定な少女たちと、逃避がテーマといえる『オズの魔法使』は親和性がある。『17歳のカルテ』は、強い酒と薬物を大量服用して自殺未遂を起こし、精神科病院に収容されたスザンナ(ウィノナ・ライダー)が主人公だ。彼女が同室になるジョージーナの愛読書は『オズの魔法使』である。また、少女たちの病棟にある共同の居間にはテレビが置かれていて、そこで流れているのも『オズの魔法使』だ。

 また、家族の死や仕事のスランプから、主人公が酒と睡眠薬を大量服用してしまい、目が覚めると精神科の閉鎖病棟に収容されている、松尾スズキの『クワイエットルームにようこそ』もこれらの映画の系譜だ。コメディの中にどうしようもない希死念慮があふれる、笑ってしまいながらもどこかとても怖い映画である。ヒロインの明日香(内田有紀)に希死念慮の自覚はないが、毎晩のように酒で導眠剤を流し込んで眠る生活を送っている。彼女も、高校時代の演劇で『オズの魔法使』のドロシー役を演じたのが大事な思い出であり、ルビーの靴ならぬ銀色のローファーに愛着を持っている。そして明日香は病院内で暴れて拘束されてしまった際、かかとを三回打ち鳴らす。しかし、やはり偽物の靴ではどこにも行くことはできないのだ。

 これらの映画が『オズの魔法使』に圧倒的な共鳴を覚える理由も、作品を観ているととてもよくわかる。心の傷ついた者たちにとって、理想の地と帰るべき現実を往復する『オズの魔法使』は、まるで自分の物語のようなのだろう。そこにはもちろん、傷ついた女性の原型のように、ドロシー役のジュディ・ガーランドがいる。薬物依存に苦しみ、自殺未遂を繰り返したジュディ。もしかしたら、ジュディ自身もどこかへの逃避を望んで、かかとを三回打ち鳴らしてみたことがあったかもしれない。

<オススメの作品>
『17歳のカルテ』(1999年)

『17歳のカルテ』

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演者:ウィノナ・ライダー/アンジェリーナ・ジョリー/クレア・デュヴァル/ウーピー・ゴールドバーグ/ジャレッド・レトー/ブリタニー・マーフィ

 主人公のスザンナ役のウィノナ・ライダーと、長期入院患者のリサを演じたアンジェリーナ・ジョリーは、ともに私生活でも不安定さが如実に感じられる女優だった。二人とも個性が際立った役柄だったが、特に魅力とカリスマ性があって、ほかの入院患者たちに影響を及ぼしていくアンジェリーナ・ジョリーは、本作によって一躍スターダムにのし上がった。病院でしか生きられない者と、生きる希望を見つけて社会に復帰できる者の違いをうまく描いた作品だ。

『クワイエットルームにようこそ』(2007年)

『クワイエットルームにようこそ』

監督:松尾スズキ
出演者:内田有紀/宮藤官九郎/蒼井優/りょう/中村優子/高橋真唯

 松尾スズキ原作、監督による作品。主人公の明日香は以前に夫が自殺しており、最近は父親も亡くなったうえに仕事のスランプを抱えている。そのストレス解消に睡眠薬と酒のカクテルをするうちに昏睡状態となり、精神病院の女子閉鎖病棟に入院することになる。ほかの入院患者は個性的な人ばかりで、蒼井優の毒気のある儚さや、大竹しのぶのアクの強さは衝撃的。コメディ映画に仕上がってはいるが、ヒリヒリする不安が心に食い込んで印象に残る。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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